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浦和地方裁判所 昭和60年(行ウ)19号 判決 1990年2月26日

埼玉件三郷市戸ヶ崎二丁目三七二番地

原告

株式会社東海

右代表者代表取締役

野山恵美子

右訴訟代理人弁護士

町田健次

渡邉一雄

西川美数

太中茂

吉武伸剛

右訴訟復代理人弁護士

安井規雄

埼玉県越谷市赤山町五丁目七番四七号

被告

越谷税務署長

吉田満朗

右訴訟代理人弁護士

山内喜明

右指定代理人

玉田真一

中澤勇七

村上昇康

三村明

新井宏

内川幸親

神谷宏行

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用はいずれも原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和五八年一二月二四日付をもつてなした昭和五七年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度の法人税に対する更正及び重加算税の賦課決定の各処分(裁決によつて一部取消後のもの)について所得金額金一五一二万三七四七円、法人税額金五三三万四四〇〇円を越える部分及び重加算税の賦課税決定処分の全部を取消す。

2  被告が原告に対して昭和五八年一二月二四日付をもつてなした同五八年二月ないし同年一〇月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(裁決によつて一部取消後のもの)のうち、同年六月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を取消す。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、パチンコ遊戯場を営む株式会社であるところ、昭和五七年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度(以下「本件係争事業年度」という。)の法人税について別表一1の確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和五八年一二月二四日付をもつて、原告に対し別表一1の更正、賦課決定欄記載のとおり更正処分並びに重加算税の賦課決定処分を行つた。

2  被告は、原告に対し、昭和五八年二月分から同年一〇月分までの源泉徴収に係る所得税について、別表一2(1)の納税告知、賦課決定欄記載のとおり納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。

3  原告は昭和五九年二月二二日それぞれについて異議申立をしたが、被告は同年六月四日いずれもこれを棄却した。そこで原告は同年七月三日、国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同所長は同六〇年八月三一日付をもつて別表一1及び2の各裁決欄記載のとおり裁決をなし、同裁決書謄本は同年九月二六日原告に送達された。

4  しかし、右更正処分及び重加算税の賦課決定処分(裁決によつて一部取消後のもの-以下それぞれ「本件更正処分」「本件重加算税賦課決定処分」という。)並びに右納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(裁決によつて一部取消後のもの-以下(本件納税告知処分等」という。)は、いずれも違法であるから、原告は、被告に対し本件更正処分、本件重加算税賦課決定処分及び納税告知処分等の各取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3は認ある。

三  被告の主張

1  本件更正処分の適法性

(一) 推計課税の必要性

被告は、原告に対し、本件係争事業年度についての法人税調査を実施したが、原告は本件係争事業年度の売上に係る資料の大部分を破棄していたため、右売上金額を帳簿書類等の資料に基づいて確認することができなかつた。

そこで、被告は、原告に対し本件係争事業年度以降の青色申告承認の取消処分を行うとともに、原告が保存していた昭和五八年三月から同年六月までの後記差玉表等を基礎として本件係争事業年度の売上除外金額を推計した上、法人税の本件更正処分等を行うとともに、右売上除外金額の一部が、当時の原告代表取締役野山相昊(以下、「原告元代表者野山」という。)に役員賞与として支給されていたものと認められたので、本件納税告知処分等を行つたのである。

(二) 推計課税の合理性

(1) 被告が主張する原告の本件係争事業年度の所得金額は、次のア申告所得金額一五一二万三七四七円に、イ売上除外金額一億〇三七七万一六九〇円を加算し、そこからウ未納事業税認容額五〇万一〇六〇円を控除した金額エ一億一八三九万四三七七円であり、その各金額の算定根拠は、以下のとおりである。

ア 申告所得金額 一五一二万三七四七円

原告がした確定申告による所得金額

イ 売上除外金額 一億〇三七七万一六九〇円

次項(2)記載のとおり

ウ 未納事業税認容額 五〇万一〇六〇円

未納事業税認容額は、原告の昭和五六年七月一日から同五七年六月三〇日までの事業年度にかかる事業税のうち、本件係争事業年度において損金として計上されず未納となつているものである。

エ 所得金額 一億一八三九万四三七七円

(2) 売上除外金額の算定方法

ア (オ)の売上除外金額は、後記のとおり求めた(ウ)の売上金額から、原告の申告売上げ金額である(エ)の金額を控除して求めたものである。

(ア) 売上原価 三億二一九五万六一二七円

(イ) 売上原価率 六〇・七八パーセント

(ウ) 売上金額 五億二九七〇万七三四九円

(エ) 申告売上金額 四億二五九三万五六五九円

(オ) 売上除外金額 一億〇三七七万一六九〇円

イ 前記(ア)ないし(エ)の各項目の算定根拠は次のとおりである。

(ア) 売上原価 三億二一九五万六一二七円

原告作成の本件係争事業年度の損益計算書計上の売上原価(ただし、パチンコ以外の売上にかかる原価として、区分して計上されていた三〇万九九〇〇円を除く。)三億二二八六万九九三七円から、従業員の制服代金九万二〇六〇円、仕入代金未払分にかかる支払利息八〇万円及び飲料売上代金額に対する原価(ただし、公表された以外のもの。)二万一七五〇円を除外した金額である。

(イ) 売上原価率

<1> 売上原価率は、別表三の一のとおり、後記差玉表等が存した昭和五八年三月から同年六月までの記帳されていた売上金額及び売上原価から求めた。

<2> 別表三の一の各項目の算定根拠

(a) 売上金額 二億一三九二万四六二〇円

売上金額は、記帳されていた前記期間の売上金額一億六一一五万八九〇〇円に、右期間の売上除外金額五二七六万五七二〇円を加算したものであり、右売上除外金額は、差玉表に記載されていた後記差玉数と任意の売上除外割合をインプツトして得た差玉数及び開放台の差玉数との差数一三一九万一四三〇個(その計算方法等については別表二のとおり。)に一個当たりの売上単価四円を乗じたものである。

右差数を計算するに当たつては、原告においては一日五台の開放台が設けられていたことから、この五台については差玉表に差玉数が記入されていなかつたので、一台当たり三〇〇〇個の玉数を毎日四回開放したものとして、一日六万個の玉数を差玉数から控除して計算した。

(b) 売上原価 一億三〇〇〇万八八八三円

昭和五八年三月から同年六月までの売上原価は別表三の二のとおりである。

(c) 売上原価率 六〇・七八パーセント

昭和五八年三月から同年六月までの売上原価率は、同期間の売上原価一億三〇〇〇万八八八三円を同期間の売上金額二億一三九二万四六二〇円で除して算出した。

(ウ) 売上金額 五億二九七〇万七三四九円

本件係争事業年度の売上金額は、前記売上原価三億二一九五万六一二七円を前記売上原価率六〇・七八パーセントで除して算出した。

(エ) 申告売上金額 四億二五九三万五六五九円

原告作成の本件係争事業年度の損益計算書計上のパチンコ売上金額である。

(三) したがつて、原告の本件係争事業年度の所得金額は、前記申告所得金額一五一二万三七四七円に前記売上除外金額一億〇三七七万一六九〇円を加算し、そこから前記未納事業税認容額五〇万一〇六〇円を控除した金額一億一八三九万四三七七円であり、これと金額を同じくする本件更正処分は適法である。

2  本件重加算税賦課決定処分の適法性

原告は、昭和五七年二月から、その営業管理のためにコンピユーターを導入し、これによつて売上金、景品交換玉数、パチンコ機一台当たりの回収玉数及び補給玉数、回収玉数から補給玉数を控除した玉数(以下「差玉数」という。)等(以下「売上等管理資料」という。)を管理していたところ、右コンピユーターによる売上等管理資料作成のシステムには、任意の売上除外割合をインプツトすると、各玉売機の売上金が売上除外割合だけ減額された売上資料がアウトプツトされるとともに、さらに売上除外に見合うパチンコ玉数が補給玉数に加算されて差玉数が減少する機能を有していた。

そして、原告会社では、日々閉店後、一旦真実の売上等管理資料をアウトプツトし、その真実のデータを基に、パチンコ機調整等のため、パチンコ機ごとの差玉数を記載した表(以下「差玉表」という。)を作成して別途管理し、次にコンピユーターに任意の売上除外割合をインプツトして、売上金額の一部を除外した売上除外を行つていた。

原告は右売上除外をした上、納税申告書を提出したが、これは、課税標準の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装(国税通則法六八条一項)に該当するので、本件重加算税賦課決定処分は適法である。

3  本件告知処分等の適法性

(一) 本件源泉所得税告知処分の適法性

(1) 被告が主張する昭和五八年六月分の源泉所得税納税告知処分中、役員賞与部分に対応する税額は五二〇六万〇四四〇円であり、右金額を同じくする本件源泉所得税告知処分は適法である(なお、右告知処分による源泉所得税は、五三〇〇万二五五〇円であるが、この中には原告自らが計算し、源泉徴収したにもかかわらず未納となつている税額九四万二一一〇円が含まれているので、右五三〇〇万二五五〇円のうち役員賞与部分に対応する税額は五二〇六万〇四四〇円である。)。

そして、右源泉所得税額を算出するに当たつて基礎とした役員賞与の額は、次のとおり、アの金額から、イ、ウの各金額を控除した九〇四一万一六九〇円である。

ア 売上除外金額 一億〇三七七万一六九〇円

イ 昭和五八年五月以前の原告代表者に対する役員賞与 五六〇万〇〇〇〇円

ウ 借入金返済額 七七六万〇〇〇〇円

(2) 前記各項目別金額の算定根拠

ア 売上除外金額 一億〇三七七万一六九〇円

前記売上除外金額と同様である。

イ 昭和五八年五月以前の原告代表者に対する役員賞与 五六〇万〇〇〇〇円

原告元代表者野山が売上除外金の一部を次のとおり費消したものであつて、同人に対する役員賞与と認定したものである。

(ア) 昭和五八年二月 五〇万〇〇〇〇円

使途 治療費

(イ) 同年三月 一一〇万〇〇〇〇円

使途 治療費

(ウ) 同年五月 四〇〇万〇〇〇〇円

使途 弟に対する援助

ウ 借入金返済額 七七六万〇〇〇〇円

福本徳重ほか六名からの借入金合計七七六万円は、前記売上除外金によつて返済されたものである。

エ 昭和五八年六月の役員賞与 九〇四一万一六九〇円

(ア) 右役員賞与は次のとおりである。

<1> 昭和五八年六月 二〇〇万〇〇〇〇円

<2> 右同 八八四一万一六九〇円

合計 九〇四一万一六九〇円

(イ) 前記各金額は次のとおりである。

<1> 二〇〇万円は、原告元代表者野山が売上除外金の一部を同人の親に対する援助として費消したものであつて、同人に対する役員賞与を認定したものである。

<2> 八八四一万一六九〇円は、前記売上除外金一億〇三七七万一六九〇円から、前記イの原告代表者に対する役員賞与五六〇万円及び前記ウ借入金返済額七七六万円を控除し、更に右二〇〇万円を控除したものである。

被告は、右金員について、

(a) 原告会社が、原告元代表者野山が発行済株式の二分の一に当たる一万株を、また同人の妻が七〇〇〇株をそれぞれ保有する同族会社であること

(b) 原告元代表者野山は、訴外従業員山田幸雄(以下「山田」という。)に対し、前記2で述べた方法による売上除外を指示し、同人から営業時間終了後その日の売上除外金全額を現金で受け取り、これを個人資産と区別することなく一体として管理し、親族に対する援助や医療費に当てるなど、売上除外金を自由な支配管理下に置いていたこと

(c) 仕入代金の支払いなど原告会社の営業経費の支払いは、右従業員山田が行つているが、右支払いを売上除外金から行つたことがないこと

(d) 前記借入金の返済以外に売上除外金から取得した資産は見当たらず、本件係争事業年度末までに原告会社には売上除外金にかかる資産を購入した形跡がないこと

から、原告元代表者野山に対する役員賞与と認定した。そして、右認定に際しては、原告元代表者野山が日々受け取つた金額が特定できなかつたので、本件係争事業年度末の昭和五八年六月三〇日に支払つたものとみなした。

(3) 右役員賞与に対する源泉徴収税額は、次のとおり、五二〇六万〇四四〇円である。

ア 昭和五八年六月分の役員賞与額 九〇四一万一六九〇円

イ 前月分の給与額 八〇万〇〇〇〇円

ウ 右イに対する税額 一二万四三七〇円

エ 右ア×1―12+右(イ) 八三三万四三〇七円

オ 右エに対する月額表の税額 四四六万二七四〇円

カ 右アに対する税額 五二〇六万〇四四〇円

なお、右カの金額五二〇六万〇四四〇円(すなわち、昭和五八年六月分の役員賞与と認定した九〇四一万一六九〇円に対する税額)は、オの金額四四六万二七四〇円からウの金額一二万四三七〇円を控除した金額を一二倍したものである。

(二) 本件不納付加算税賦課決定処分の適法性

原告が前記本件源泉所得税納税告知処分にかかる税額を法定期限までに納付しなかつたことについて、原告に国税通則法六七条一項ただし書の正当な理由があるとは認められないので、本件不納付賦課決定処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)のうち、被告が原告の本件係争事業年度について法人税調査を実施したこと、被告が原告の保存していた昭和五八年三月から同年六月までの差玉表等を基礎として本件係争事業年度の売上除外金額を推計したことは認め、その余は争う。

2  同1(二)(1)のうち、申告所得金額及び未納事業税額及びその各根拠については認め、その余は争う。

3  同1(二)(2)アは否認する。

4  同1(二)(2)イ(ア)は認め、同(イ)のうち、被告が差玉表等に基づいて売上原価率を算定したこと、原告が記帳した昭和五八年三月から同年六月までの売上金額が金一億六一一五万八九〇〇円であつたこと、右期間の売上原価が金一億三〇〇〇万八八八三円であることは認め、その余は否認する。

5  同1(二)(2)イ(ウ)は否認、同(エ)は認める。

6  同2は否認する。

7  同3(一)(1)は争い、同(2)のうち、ウは認め、同エのうち、原告会社が同族会社であること、原告の売上金額を原告元代表者野山が支配管理していたことは認め、その余は否認する。同(二)のうち、本件告知処分にかかる税額を法定期限までに納付しなかつたことは、明らかに争わない。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の推計課税の根拠となつた期間を含む昭和五八年一月から同年六月までの期間は、客の入りが良く、売上金額も急増したのに対して、同年七月から同年一二月までの期間は、客の入りを確保するために玉の出を良くしたという特別な事情がある。

したがつて、昭和五八年三月から同年六月までの売上高によつて算定された売上原価率をもつて本件係争事業年度全体の売上高を推計すると、その売上高は真実より過大な数値となり、前記被告の推計は合理性を欠き、違法である。

2(一)  被告の推計が正当であれば、売上除外金額すなわち推計売上高と申告売上高との差額は、原告の簿外資産となるか、簿外負債の返済に充当されるか、代表者個人の資産となるか、その負債の返済に充当されるか、あるいはその個人消費に当てられるかのいずれかであつて、その推計に係る売上除外金の行方が合理的に検証できないときは、推計の方法に誤りがあつたと認むべきである。

(二)  しかるに被告は、推計した原告の売上除外金額について原告の財務会計上どのような資産として留保されたのか、又はどのような取引形態で処分されたのか、十分な調査検証をなすことなく、推計に係る売上除外金額をもつて原告代表者野山が費消したものと推認しているのであつて、このような被告の推計の方法は合理性を欠き、違法である。

3  本件法人税更正処分において、被告の採用した推計方法は以下のとおり合理性がなく、違法である。

原告の会計管理は不十分であつて、ある程度どんぶり勘定であることは否めず、資料の保存も不完全であるから、原告の本件係争事業年度の所得の計算にあたつては、推計によらざるを得ないが、その推計方法には、中小企業庁編・中小企業診断協会昭和五九年発行の「中小企業の経営指標」及び「中小企業の原価指標」に記載されている「パチンコ業」の売上総利益率・営業利益率・経常利益率・従業員一人当年間売上高等の各指標、並びに原告の昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日事業年度(以下「前々事業年度」という。)・同年七月一日から昭和五七年六月三〇日(以下「前事業年度」という。)の売上総利益率を採用するのが最も合理的である。

この方法によつて原告の本件係争事業年度の売上金額を推計し、原告の申告に係る同年度の売上金額を比較すると次のとおりである。

(一) 売上金額の推計

(1) 中小企業の経営指標によつて推計した売上金額

ア 従業員区分(一一人~二〇人)によるもの

<1> 売上総利益率によるもの 三億八八九九万九〇〇〇円

<2> 経常利益率によるもの 四億二六二〇万八〇〇〇円

<3> 年間売上高によるもの 五億二〇〇〇万〇〇〇〇円

<4> 従業員一人当年間売上によるもの 四億八九七四万四〇〇〇円

<5> 従業員一人当粗利益によるもの 四億三六〇五万三〇〇〇円

イ 都市区分(その他の都市)によるもの

<6> 営業利益率によるもの 四億三八五四万六〇〇〇円

<7> 売上総利益率によるもの 四億〇一五七万八〇〇〇円

<8> 経常利益率によるもの 四億四二九〇万四〇〇〇円

<9> 年間売上高によるもの 四億七一〇〇万〇〇〇〇円

<10> 従業員一人当年間売上高によるもの 四億一八九九万二〇〇〇円

<11> 従業員一人当年間売上高によるもの 五億一八七〇万四〇〇〇円

<12> 従業員一人当粗利益によるもの 四億三七八七万七〇〇〇円

<13> 従業員一人当粗利益によるもの 四億五〇二九万三〇〇〇円

(2) 中小企業の原価指標によつて推計した売上金額

<14> 直接材料費率によるもの 四億四五三〇万八〇〇〇円

<15> 営業利益率によるもの 四億二一一五万一〇〇〇円

(3) 原告の前事業年度の売上原価率等によつて推計した売上金額

<16> 前事業年度の決算額の売上原価率と原処分庁の売上総利益率によるもの 五億一六五九万四〇〇〇円

<17> 前事業年度の上半期の売上原価率と原処分庁の売上総利益率によるもの 五億二〇七九万一〇〇〇円

<18> 前事業年度の前々事業年度の趨勢を加味した売上原価率と原処分庁の売上総利益率によるもの 五億〇四五四万三〇〇〇円

(二) 前記<1>から<18>の各推計売上金額の平均的売上金額

原告の本件係争事業年度の売上金額は、右各推計金額を別表四記載の方法によつて計算された右各推計売上金額の平均値である四億九五一二万四〇〇〇円と認めるのが正当である。

(三) とすると、被告の主張にかかる前記売上除外金額一億〇三七七万一六九〇円は過大である。

したがつて、被告主張にかかる右売上除外金と、前記推計方法によつて計算された原告の本件事業年度売上金額四億九五一二万四〇〇〇円から原告の申告売上金額四億二五九三万五六五九円を引いた金額六九一八円との差である三四五八万三三四九円は取消されるべきである。

4  前記のとおり、被告の更正処分は、その一部が取消されるべきものであるから、それに対応する重加算税の賦課決定処分もその一部は取消されるべきである。

5  源泉徴収所得税の納税告知処分等の取消について

原告の申告漏れにかかる売上除外金額は、前記のとおり六九一八万八三四一円であつて、その管理は原告元代表者野山が行つており、そのうち五〇〇〇万円は、原告元代表者野山によつて、原告の法人税納付資金及び運転資金として次のとおり原告預金口座に預金された。

(一) 昭和五九年四月一七日

法人税納付資金 二五〇〇万〇〇〇〇円

(二) 同年一〇月三一日

法人税納付資金 一〇〇〇万〇〇〇〇円

(三) 昭和六〇年一月二一日

法人税納付資金 五〇〇万〇〇〇〇円

(四) 同年三月二八日

運転資金 一五〇万〇〇〇〇円

(五) 同年四月四日

運転資金 二五〇万〇〇〇〇円

(六) 同年五月四日

運転資金 四〇〇万〇〇〇〇円

(七) 同年五月二八日

運転資金 二〇〇万〇〇〇〇円

右五〇〇〇万円は、原告の法人税納付と運転資金に支出されたのであるから、原告の資産として留保されていたと認めるのが正当である。

にもかかわらず、被告は、確たる証拠もないのに、ただ単に原告元代表者野山が売上除外金を自由な管理支配下に置いていたことを唯一の理由にして被告主張の売上金額のすべてを役員賞与と認定したのであつて、違法な課税処分である。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証等目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3は、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の主張1(一)(推計課税の必要性)について判断するに、成立に争いのない乙第一、第二号証、第三号証の一及び二、第四号証の一及び二、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる乙第五号証、並びに証人丸田均及び原告代表者尋問の結果によれば、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、昭和五七年二月から、営業管理のため、コンピユーターを導入し、これを山田が操作していた。

2  山田は、昭和五八年当時、原告の経理を担当しており、同人は、毎日午後七時ころと営業が終了後と二回貸玉機から金銭を回収していた。

3  そして、山田は、午後一一時ころ、右金銭と、右コンピユーターからアウトプツトした各パチンコ台の玉の出入りを記録した資料を原告元代表者野山のところに持参していた。

4  原告会社においては、右資料をパチンコ機の玉の出具合の調整のための資料として使用するため、そのままでは量が多く保存しにくいこともあつて、右資料を山田が差玉表に転記していた。

5  原告元代表者野山は、山田に対して、売上金額のうち、一定の割合を除外して売上資料を作成するように指示し、これに従つて山田が売上除外割合を右コンピユーターにインプツトして売上除外の資料を作成していた。

6  被告は、当時パチンコ業界が好況であるのに、原告の申告がこれを反映していないことから、昭和五八年六月二七日、所部係官を原告の税務調査にあたらせたところ、すでに本件係争事業年度に関する前記真実の売上に関する資料は破棄され、前記4項の山田が転記していた差玉表も一部(昭和五八年三月分ないし同年六月分)を除いて、原告のもとに存在していなかつた。

三  右認定の各事実によれば、右税務調査当時すでに原告には真実の売上を記載した資料は存在していなかつたのであるから、被告において原告の本件係争事業年度の売上金額等を合理的な方法によつて推計することは許されるものというべきであつて、本件推計課税の必要性はあつたものと認めるのが相当である。

四  そこで、被告のした推計課税の合理性について検討する。

1  前記乙第一、二号証及び前記丸田証言によれば、被告のした推計課税の方法は、要するに、原告の下に残つていた前記昭和五八年三月から同年六月までの差玉表に基づいて右期間中の売上除外金額を算出し、これに基づいて右期間中の原告の売上原価率を算出し、原告作成の損益計算書に計上されていた原告の申告売上原価を右売上原価率で除して本件係争事業年度の売上金額を算出し、この売上金額から申告売上金額を控除して売上除外金額を算出して、これに申告所得金額を加算し、そこから未納事業税額を控除したものであつて、その推計方法たはそれ自体一応の合理性があるものと認めることができる。

2  そして、原告の本件係争事業年度の申告所得金額、本件係争事業年度の売上原価については、当事者間に争いがない。

3  そこで、まず、昭和五八年三月から六月までの間の売上金額について判断する。

(一)  前記のとおり、昭和五八年三月分ないし同年六月分までの差玉表は、山田がコンピユーターからアウトプツトされた真実の回収玉、補給玉等の数値を写しとつて一覧表としたものであり、前記丸田証言及び前記乙第五号証によれば、これは、個々のパチンコ台の玉の出具合を日々把握して、いわゆる「釘」の調整をして、その台の出具合を調整するためのものであり、パチンコ店の営業上極めて重要なものであることが認められる。従つて、右差玉表の数値は、真実の玉の出入りを記載しているものと認められる。

(二)  前記乙第五号証によれば、経理を担当していた山田はいわゆる開放台は五台設置していた旨供述しており、開放台の設置台数は、五台であると認めるのが相当である。

これに対して、原告元代表者野山は、開放台は七、八台あつた旨供述するが、他面、開放台の設置については山田等に任せており、開放台については原告元代表者野山より山田の方がよく知つている旨供述しており、その台数については、前記山田供述の方が信用性が高く、原告元代表者野山の右供述は採用できない。

(三)  また、成立に争いのない乙第三号証の一及び二によれば、昭和五十八年七月四日及び同月五日の開放台一台当たりの開放玉数は、平均して二二五四個であり、その開放回数は、いずれも一日三回であることが認められ、右事実からすれば、被告主張のように開放台一台当たり開放玉数三〇〇〇発、一日当たり四回開放するものとして開放台の開放玉数を計算するとすれば、少なくとも現実の開放玉数は右被告主張の開放玉数を下回ると推認されるのであつて、そうであれば実際の売上除外額は被告主張の売上除外額を下回ることはなく、右被告主張の開放玉数の計算方法には合理性があるといわなければならない。

これに対して、原告元代表者野山は、開放台一台当りの開放玉数は三〇〇〇発、一日四、五回開放していた旨供述するが、前述のように開放台の設置については山田らに任せていた旨の同代表者自身の供述及び前掲各証拠に照らして採用できない。

(四)  そうだとすれば、前掲乙第一、二号証及び前記丸田証言によれば、前記期間中の差玉数は、差玉表に記載されていた差玉数から、原告が任意の売上除外割合により作出した差玉数を差し引き、さらに開放台の差玉数を差し引いた一三一九万一四三〇個と認められ、また弁論の全趣旨から一個当たりの単価は四円と認められるから、同期間中の売上除外金額は、前記一三一九万一四三〇個に四円を乗じた金五二七六万五七二〇円と認められる。

したがつて、この売上除外金額に、当事者間に争いのない前記期間中の差玉表等に記帳された売上金額一億六一一五万八九〇〇円を加算した金二億一三九二万四六二〇円が、前記期間中の売上金額と認められる。

4  そして、前記期間中の売上原価金一億三〇〇〇万八八八二円は当事者間に争いがないから、これを前記売上金額二億一三九二万四六二〇円で除すと、前記期間中の原告の売上原価率は、被告主張のとおり六〇・七八パーセントと認められる。

5  前記本件係争事業年度の原告の売上原価金三億二一九五万六一二七円を前記売上原価率六〇・七八パーセントで除して原告の本件係争事業年度の売上金額を求めると同売上金額は、被告主張のとおり金四億二五九三万五六五九円となる。

したがつて、本件係争事業年度の売上除外金額は、右売上金額から、当事者間に争いのない申告売上金額金四億二五九三万五六五九円を控除した金一億一八三九万四三七七円と認められる。

6  そうすると、原告の本件係争事業年度の所得金額は、右売上除外金に前記申告所得金額を加算し、当事者間に争いのない未納事業税認容額金五〇万一〇六〇円を控除した金一億一八三九万四三七七円と認めるのが相当であり、右認定を覆すに足りる証拠はない。

五  次に、原告の反論について判断する。

1  原告は、昭和五八年七月から同年一二月にかけては、同年一月から六月までの客の入りを確保するため、玉の出を良くしたために売上原価率は、後者の期間に比べて高くなつていたという特別な事情がある旨主張するが、原告代表者尋問の結果を検討しても、右特別の事情の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  また、原告は、被告が推計した売上除外金額の行方を検証すべきである旨主張するが、前記のように被告の推計方法には一応合理性を認あうるのであるから、売上除外金額が被告の推計した売上金額より少ないことが証明されない限り、被告が推計した売上除外金額の行方が検証されないからといつて、被告の推計方法が合理性を欠くことにはならないといわなければならない。

3  更に、原告は、「中小企業の経営指標」等を利用して原告の売上金額を推計すべきである旨主張するが、限られた期間ではあるが、原告自身の差玉表等の資料に基づいて推計した方がより真実の売上金額に近い推計が可能であり、より合理的であると考えられるのみならず、右原告主張の推計には、売上除外をした上での原告の申告売上金額を下回るもの(原告の売上金額の推計の<1>、<7>、<10>、<15>)も入つており、これらを原告の売上金額の推計の基礎とするのは合理性を欠くものといわざるを得ない。

更に、原告代表者野山尋問の結果によれば、昭和五七年二月にコンピユーターを導入する以前からも売上除外を行つてきたことが認められ、そうだとすると、すでに売上除外を行つていた前事業年度の売上原価率等によつて本件係争事業年度の売上金額を推計することは、真実の売上金額と相違する蓋然性が高く、かかる観点からも右原告の主張は妥当でない。

したがつて、右原告の主張は採用できない。

六  本件重加算税賦課決定処分について判断するに、原告元代表者野山が山田に命じて売上除外を行つて納税申告書を提出していたことは前記のとおりであり、これは課税標準の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当するというべきである。

そして、前記認定のとおり本件係争事業年度の原告の所得金額は金一億一八三九万四三七七円と認められるから、本件重加算税賦課決定処分は適法である。

七  本件告知処分等について判断する。

1  前記認定のとおり本件係争事業年度における売上除外金額は金一億〇三七七万一六九〇円であり、昭和五八年五月以前の原告元代表者野山に対する役員賞与金五六〇万円、借入返済額七七六万円及び同年六月の役員賞与のうち二〇〇万円については、当事者間に争いがない。

2  そこで、右売上除外金額から昭和五八年五月以前の役員賞与額、借入返済額を差し引いた金八八四一万一六九〇円が原告元代表者野山に対する役員賞与であるか否かについて検討する。

(一)  原告会社が同族会社であること、売上除外金を原告元代表者野山が管理支配し、その一部を同人の母や弟に援助として金銭を渡したり、自己の歯の治療費として自由に費消していたことは、当事者間に争いがない。

そして、前掲乙第五号証、証人丸田の証言及び原告代表者の供述によれば、前記売上除外金はすべて原告元代表者野山に渡されていたこと、原告会社の仕入れ、備品の購入等の支払や従業員に対する給与の支払が右売上除外金からなされたことはなく、また、原告会社には右売上除外金額に見合う保有資産は他に存在しないことが認められる。

以上の事実を総合すれば、前記売上除外金がいつ、いくら原告元代表者野山に支給されたのかは確定し難いものの、前記売上除外金額から役員賞与、借入返済額を差し引いた金額は、原告元代表者に対し役員賞与として支給されたものと認定することができる。

(二)  これに対して、原告代表者野山は、原告会社の売上除外金のうちから原告の法人税納付資金として五〇〇〇万円、原告会社の運転資金として七、八百万円を原告会社の会計に戻したのであるから、前記売上除外金は、原告元代表者野山に対し役員賞与として支給されたものではない旨供述している。

しかしながら、成立に争いのない乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば、右原告代表者の供述中の金五〇〇〇万円は、昭和五八年一〇月から同五九年四月にかけて、一旦原告元代表者野山名義の預金口座と同人の実兄である野山辰夫名義の預金口座に定期預金され、原告元代表者野山個人の支配下にあつたことが認められ、前掲乙第六号証、証人栗原正の証言及び原告代表者本人の供述によれば、税務調査により売上除外による過少申告等が発覚したのち、税理士栗原正の勧めによつて、右五〇〇〇万円の定期預金を担保に原告元代表者野山が同五九年四月一六日に金二五〇〇万円を借入れるなどして法人税の納付をしたことが認められるのであつて、これらの事情に照らすと右五〇〇〇万円の売上除外金は、たとえ後に原告元代表者野山がいつたん取得した売上除外金の中から原告の納付すべき税金等の支払のために支出したとしても、これが前記のとおり原告元代表者野山に対し役員賞与として支給されたものであると認定することの妨げとなるものではない。

また、右売上除外金から七、八百万円は原告会社の運転資金として同会社の会計に戻した旨の原告代表者野山の前記供述は、これを裏付けるべき証拠がなく採用し難く、以上のほか前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  したがつて、被告が原告に対してなした源泉所得税納付告知処分は、適法である。

3  以上のとおりであるから原告の源泉徴収税額は金五二〇六万〇四四〇円であり、これを原告が法定期限までに納付しなかつたことは明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、したがつて、本件不納付加算税賦課処分は適法である。

八  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 熱田康明 裁判官 西郷雅彦)

別表一

1 法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分

<省略>

2 源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分

1 総括表

<省略>

2 昭和五八年六月分

<省略>

別表二

昭和58年3月から同年6月までの売上除外玉数集計表

<省略>

別表三の一

<省略>

別表三の二

<省略>

別表四

<省略>

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